松翁軒の歩み
松翁軒の歴史は江戸の中期…
元亀二年(1571年)港町・長崎
遥か遠く西欧から交易を求め、初めてポルトガル人が上陸。カステラの製法は、この時代に日本に伝わったと言われています。
天和元年(1681年)長崎市本大工町
長崎市の本大工町に初代山口屋貞助が店を構え、カステラや砂糖漬けなどの製造を始めました。歴代菓子作り一筋に三百余年を数える松翁軒の歴史は、ここが出発点となります。

焼き釜 昔のカステラ焼き
炭を使って焼いた昔の焼き釜。上下に炭を入れ、中に入れた水入りの缶で釜の温度を計った。 昔のカステラ焼き風景昔の製法では、ひと釜焼くのに約1俵もの炭が必要だった。
寛政年間・五代目要次郎
ざぼん漬けの製法を習得して売り出し、また晩年には六代目幸次郎に寒菊の製法を伝えました。
文久年間・七代目熊吉
七代目当主熊吉はカステラの製造だけでなく、細工菓子の名人として世に知られていました。その見事な細工菓子を賞賛した国学者・中島広足の知遇を得て、現在の屋号「松翁軒」と能面の翁の商標が贈られました。

べっこう職人だった7代目熊吉が制作したぬくめ細工の写真。
砂糖菓子とは思えない精密さ。

ぬくめ細工
明治中期・八代目貞次郎
長崎菓子同業組合の組合長を務め、長崎カステラの普及に尽力した八代目貞次郎。各種博覧会、共進会に私費を投じて出品する一方、家伝の製法と原料の探求に情熱を注ぎ、当時珍重されていたチョコレートを使った松翁軒オリジナルのカステラ「チョコラーテ」を創り出しました。伝統の味に新しい風味を加えたその味は、現在も多くのお客様にご愛顧いただいております。
明治三十三年(1900年)パリ
パリの大博覧会にカステラを出品して名誉大銀盃を受賞。続いてセントルイス万国大博覧会では、名誉大金牌を受賞。国内外の博覧会等で高い評価をいただいております。
明治27年頃の原料の配合帳
今も残る明治27年頃の原料の配合帳。
これは通常品の場合だが、宮内庁に納める場合は、砂糖と卵の配合が多めに記載されていた。




大正時代から昭和初期のカステラ工場の様子。
カステラ工場の様子
平成六年(1994年)スペイン
ポルトガル人によって伝えられ長崎で育まれたカステラが、ほぼ450年の時を経て、スペインに里帰りしました。
日本の菓子として成長したカステラのレシピを、松翁軒がマドリードの菓子職人に直伝。ハポン(日本)のカステラとして新たな歩みを始めています。
ハポンのカステラ
スペインと日本の国旗の小旗とともに飾られた「ハポンのカステラ」
カステラ工場の様子 時代と言葉の壁を越えて、スペインの菓子職人に製法を伝える。
平成八年(1996年)長崎
カステラの故郷・ポルトガルから、その美味しさに魅せられて、菓子職人パウロ=ドゥアルテさんが松翁軒を来訪。
日本文化にも精通した彼は、三カ月の間、カステラ作りを現場で熱心に学びました。



ポルトガルからカステラ作りを学びに来日したパウロさん。
焼き上がったカステラを前に思わず笑みがこぼれる。
来日したパウロさん



松翁軒のカステラ
カステライメージ 天和元年の創業以来、430年以上受け継がれてきた伝統の製法で、熟練の職人が一人ひとつの釜で、一枚ずつ、丁寧に焼き上げる。それが松翁軒のカステラのこだわりです。
松翁軒では創業以来変わることなく、現在も玉子割りから焼き上がりまでを一人の職人が担当しています。季節や温度により、材料の準備から焼きかたまで、その製法は微妙に異なってくるため、工程のほとんどを占める手作業には、伝統の上に長年培われた熟練の技術と勘が必要とされます。
長い歴史の中で辿り着いた…
小麦粉
一般で使われる普通の薄力粉では長崎カステラは焼き上がりません。松翁軒では、ふんわり、もっちりとした焼き上がりのために、保水性に優れた特殊なカステラ専用粉を使用します。
卵
卵は島原半島の契約農家から直送、美しい焼き上がりのために、新鮮さや味だけでなく、温度から黄身の色まで厳しく管理されています。
ザラメ
ザラメは長崎カステラを作る上で絶対に欠かせない原料です。糖度のより高いザラメを加えることで、上白糖だけでは作ることが出来ない、長崎カステラの上品な甘味が生まれます。ザラメを敷くのではなく、「ザラメを使って焼き上げる」のが松翁軒のカステラ。生地の下に残ったザラメは、焼き上げる時に生地に溶け切れずに沈んだものなのです。
水飴
色良く甘味に濁りが無い、国内産の餅米飴を使用。水飴を加えることでシットリと焼き上がり、生地の老化を防ぎます。伝来当時パンのようなものだったカステラは、水飴を加えるという長崎人の工夫で現在のようなカステラになったのです。



カステラができるまで

材料は地元厳選の玉子、上白糖、ザラメ、小麦粉、水飴。小麦粉以外の材料を攪拌し、これを手作業で小麦粉と丁寧に混ぜ合わせ、生地を作り上げます。生地の温度を焼きに最適な23℃〜25℃に合わせるため、仕入れる卵から道具まで季節に合わせて微妙な温度管理を行います。
卵に水分が増え温度も上がる夏場は、一旦冷蔵庫で冷やし、生地作りの段階でも水分調整が必要となります。

出来上がった生地を木枠の台へ流し込みます。

生地作りを行った職人自らの手で釜入れし、50分ほどかけてじっくりと焼き上げます。
焼き上がるまでただ待っていればいいというわけではありません。長崎カステラの美味しさの基であるザラメを生地全体に行き渡らせ、焼きの温度を均一にするために、木ベラを使って生地を丹念に混ぜ合わせる「泡切り」を行います。
ひとつのカステラを焼き上げるためには、焼き具合に応じて3回もの「泡切り」が必要なのです。

焼き上がったばかりの生地はすぐには切らず、特製の木の箱に入れて一晩寝かせます。
これは、余熱を放つとき木の棚(たな)に移った水分が、一晩かけてゆっくりとカステラに戻るのを待つためです。



効率とは無縁のこれらの手間を惜しまないことで、しっとり、ふんわりとした長崎のカステラが出来上がります。
一般のお客様が焼いてもなかなか思うように美味しく焼き上がらないのは、これらの数百年にも及ぶ細緻な経験の積み重ねによってしか得られない、熟練職人の技術が必要であるからなのです。







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