季節のかすてら噺 平成17年夏号
カステラのある風景 名家老はカステラ家老、四角い包みの中味は…?
イラスト1 江戸は砂ぼこりと風の町。初夏の白い道を、小者に四角い包みを持たせ、麻上下の武士が急ぎます。武士は下総古河藩の江戸家老、鷹見泉石。となると四角い包みの中味はカステラ、と見えます。

仕える藩主土井利位は、大坂城代、京都所司代から老中首座まで登り詰めた実力者。が、その栄進の陰にこの人ありといわれたのが家老鷹見泉石でした。この泉石、大のカステラ党。二十一歳の若さから七十四歳の没年まで書き続けた膨大な日記の随所に「かすてら」の四文字が登場します。
「伊豆守様へカステラ一折差し上げる」
「田村様奥様に加須てら進上、ご答礼戴く」
「田村左兵衛様ご不快、お見舞い加寿天羅一折…」
一折とは一箱。なかには「台付」などと格式の高いご進物も。
泉石は当時の蘭学者と広くつきあい、長崎出島のカピタンとも親交の深い進歩的文化人でしたから、ハイカラなカステラに目がなかった。いえ、それよりもこの人、四角いカステラが人と人を丸く結ぶよすがとなることをよくよく知っていたのです。

時代はいよいよ黒船時代。幕閣にある主君土井侯のために貴重な世界地図やアヘン戦争、ロシアの南下など海外最新情報をいち早く入手するにも、カステラが一役買っていたのかもしれません。 名君と名家老、ときには美麗な塗りの台にのった卵色のカステラを前にしながら世界情勢を論じ合ったりしたのでしょうか。

(A)
イラスト2


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