ながさき暦
古来、異国との交流の盛んであった長崎
ながさき暦 其の八 我が子を想って託した「白砂糖300篭(かご)」。親日カピタン「ドゥーフ」と長崎奉行の人情ものがたり。
長崎で開催されている、日本初のまち歩き博覧会「長崎さるく博'06」。
その見どころのひとつに、有名な「出島」があります。1996年から長崎市によって進められていた整備事業により、2006年4月から、新たに復元された「カピタン部屋」を始めとする5棟が公開され、訪れる人々を驚かせています。今回は、この「カピタン」にまつわる、長崎の人情ばなしをお届けしましょう。


「カピタン」とは、昔の言葉で「オランダ商館長」のことです。鎖国時代当時、唯一西洋との貿易が許されていた出島では、カピタンのもと、商館員たちがオランダと日本の貿易を取り持っていました。

1803年、わずか27歳の若さで長崎出島のオランダ商館長に着任したヘンドリック・ドゥーフは、歴代のカピタン(オランダ商館長)の中でも、最も日本人に親しみ、幕府からも信頼された人物といえるでしょう。特に、彼が編纂(へんさん)を手がけた本格的な蘭日辞書「ドゥーフ・ハルマ辞書」は有名です。

彼は日本在任の18年間の間に、丸山遊女の瓜生野(うりゅうの)との間に「丈吉」という男の子をもうけています。
故郷オランダの戦乱や他国との貿易争いに、苦労が絶えなかったドゥーフにとって、丈吉はかけがえのない存在だったことでしょう。

やがて、1815年、長い戦争の果てに彼の祖国オランダは独立を果たし、任期を終えたドゥーフは帰国の途につくことになります。当時、日本人との間に生まれた子どもを外国へ連れ帰ることは固く禁じられていましたが、我が子を残したまま日本を離れなければならなかった彼は、長崎奉行へ嘆願書を出しました。

『長崎港俯瞰図』 川原慶賀「長崎港図」による模写

ドゥーフも住んでいたであろう「カピタン部屋」。


 ドゥーフ像(神戸市立博物館蔵)

「丈吉は、たった一人の我が子です。
私がいなくなれば、この子は独りぼっちになってしまう。どうか、この子が成人したら長崎奉行所で、役人としてとりたててほしい。できるだけ日本人として、日本の中で生きて行けるように…」
当時の長崎奉行は、日本とオランダの為に力を尽くした彼の要望に応え、父親の名にちなみ、「道富」という名字を与えて役人にとりたてたのでした。
身を切られる思いで日本を去ったドゥーフは、我が子の未来のために、当時大変貴重であった「白砂糖300篭(かご)」を長崎奉行に託しています。
人情味溢れるこの時の長崎奉行の名前は、遠山左衛門尉景普(とおやまさえもんのじょうかげみち)。なんと、あの有名な「遠山の金さん」の実の父親にあたる人物でした。

現在も着々と復元計画の進む出島の全景。
再現された一番蔵の内部。 外国との貿易が厳しく制限されていた鎖国の時代、長崎の菓子職人たちは、豊富に手に入れることのできた白砂糖でカステラを作り上げました。復元された出島の西側に立つ「一番蔵」や「三番蔵」には、輸入品であった砂糖がぎっしりと納められていたそうです。

松翁軒八代目の貞次郎が「チョコラーテ」を創作するきっかけとなったチョコレートも、寛政年間(1789〜1801)頃に長崎に伝わったと言われ、当時の丸山遊女の「出島商館からの貰い品目録(もくろく)」に、「チョクラート」という名前で登場しています。

ドゥーフさんも、愛する瓜生野や丈吉への喜ぶ顔見たさに、白砂糖やチョコレートを持って行ったのかもしれませんね。


写真協力:
出島復元整備室「甦る出島」 ◆http://www1.city.nagasaki.nagasaki.jp/dejima/
長崎歴史文化博物館 ◆http://http://www.nmhc.jp/



ながさき暦 バックナンバー
VOL.7イラスト 春の足音に耳を澄まして。「長崎水辺の森公園」散策のご案内。

其の七
待ち遠しい春の訪れに向けて、おすすめの長崎散策スポットを紹介しましょう。
VOL.6イラスト 華やかなランタンの光に響く、郷愁の銅鑼の音色。長崎に伝わる媽祖の伝説。

其の六
数えきれない煌めく灯火、色とりどりに輝く様々な形の燈籠が、冬の街を照らし出します。
VOL.5イラスト 「私たちはあなたと同じ胸を持つ者。サンタ・マリアの御像はいずこに?」

其の五
サンタ・マリアの御像はいずこに?長崎に起こったキリシタン復活のドラマ
VOL.4イラスト 長崎っ子の血が騒ぐ、諏訪神社の秋の大祭。360年余りの伝統を誇る長崎くんち。

其の四
晴れ渡った長崎の秋空に、シャギリの音色が聞こえてくる季節になりました。
VOL.3イラスト 人々から愛された宰相・屈原を偲ぶ。夏の長崎の風物詩・ペーロン競漕。

其の三
力強い漕ぎ手のオールが波に煌めく飛沫をあげて、いくつもの船が疾走します。
VOL.2イラスト 美しいアジサイに愛する人の名を。オランダ商館医・シーボルトの軌跡。

其の二
6月の梅雨の季節を象徴する花、アジサイ(紫陽花)は、長崎と大変ゆかりの深い花です。
VOL.1イラスト 大空を舞う春の風物詩、長崎名物「ハタ合戦」。

其の一
他県で正月の定番となっている凧も、長崎では春の風物詩。400年以上におよぶ歴史の凧「ハタ」


(C) 2005 Syououken Corporation. . All Rights Reserved. ページトップへ